日本国内の各地に森林セラピー基地がありますが、上松町の森林セラピーの特徴が医療機関との連携です。現時点で、森林浴や森林セラピーは日本国内では医療行為として認められていません。それでは、なぜ県立病院が連携を?

その理由は、地域色豊かな地方医療への夢があります。


木曽病院、森林セラピーと出会う

長野県立木曽病院は、木曽地域唯一の総合病院です。木曽エリアという広大な面積(大阪府の8割に匹敵します)で、入院・手術・治療などの医療サービスを一手に引き受けています。

2000年代半ば、病院長を務めていた久米田茂喜医師は長野県が示した財政改革の方針に苦心していました。当時の長野県は財政難で、外郭団体の補助金や運営費にメスが入り、県附属の各団体も活動休止や廃止が相次いでいました。木曽病院は久米田院長の手腕で7年連続の黒字経営を続けていましたが、附属看護学校は准看護師しか取得できない2学年制で、廃止の方針となっていたのです。

木曽病院から看護師が巣立たなくなれば、地方の医療は徐々に衰退してしまう。久米田院長が悩んでいたその時、上松町から森林セラピーの話題が耳に入りました。森林が豊富な木曽の県立病院にとって、森林が健康に活用できる森林セラピーは大きなチャンスとなりました。

木曽病院では、直ちに経営企画書を作成しました。

(1)森林がもたらす健康増進効果により、木曽地域の住民を健やかに育む。

(2)住民が健康になり自治体の医療費が抑制されれば、町村行政も元気にできる。

(3)看護学校は3学年制に再編成し、正看護師資格取得とともに森林セラピーを学ぶ。

…この企画書は長野県にも好評でしたが、世は財政難の真っ只中。当時の田中康夫知事から「この考えは非常にユニーク。だが県には予算がない。ぜひ上松町と組んで経験を積んでほしい」との指示が発せられ、県立木曽病院は森林セラピーに取り組むことになりました。

森林セラピーのサービス展開

現在、非常に珍しい経営方針を示した木曽病院は他の県立病院とともに、長野県から独立した県立病院機構の所属となって運営されています。附属看護専門学校も2学年制から3学年制に再編成されて正看護師資格を取得することができ、1学年のはじめに環境論として森林セラピーを30時間学ぶカリキュラムが導入されました。

また病院のサービスとして、森林セラピードック(長野県職員は助成制度もあります)、森のお医者さん健康相談なども開催。看護学校の生徒たちだけでなく、木曽病院を訪れた研修医や看護師も赤沢自然休養林への巡回に同行。院長を退任した久米田医師は名誉院長として、月1回の「医師と歩く森林セラピーの森」イベントに同行したり、森林浴の健康増進等に関する調査研究で木曽病院と研究者の調整役を務めています。

(写真:久米田茂喜医師)

 

森林セラピーを展開する自治体にとって、医療機関がこれほど熱心に連携して下さる例は、なかなかありません。上松町は県立木曽病院に森林セラピーへのご理解をいただき、非常に恵まれた環境にありました。

木曽病院は木曽地域の医療費削減を目標としていますが、現代日本では膨らみ続ける医療費を削減するために、政府をあげて予防医療に取り組む流れとなっています。木曽病院の活動は国の動きを先取りした事例と言えます。

新型コロナウィルスの蔓延でインバウンド観光は壊滅していますが、コロナ禍以前は、木曽病院には海外からの視察や取材も相次いでいました。日本でも、より多くの皆様に森林セラピーや森林浴を体験していただき、「病気にならないための医療」に取り組んでいただければ、と願うばかりです。

県立木曽病院の森林セラピー紹介ページは、こちらから。

環境論で森林セラピーについて学ぶ、木曽看護専門学校の1学年生。実地体験を行いながら、自然を活用した健康増進について修学します。


おまけ

森林セラピーのリラックス効果は、お客様だけのものではありません。日常業務でストレスにさらされている医師にとって、爽やかな森林を歩けるのは良い刺激になるようです。

健康相談の巡回時、お客様がいない時にはお医者さんが森林を歩きに出かけます。

また木曽病院で研修をする研修医も、2度目の巡回の際に水泳パンツを持参して川に飛び込み、引率の指導医を困らせていたことがありました。

お医者さんのリフレッシュにも、森林セラピーは有効なようです。

病院の医師は勤務が大変なだけでなく、異動も多い職業です。しかし「あの病院は面白かった」と木曽病院を選ぶお医者さんが増えれば、森林セラピーは病院のためにもなりますね。それは森林セラピーを展開する地元の願いでもあります。

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